伝えたい言葉なんてない

昔詠んだ歌、今詠む歌

蝉時雨

もう誰も 知る顔のない 町はずれ かしげた日傘に 降る蝉時雨

懐かしい 恋の名残は 歌の中 ドーナツ盤の回転の中

静脈に 映す炎の 緋の色で 君を溶かすか 我が融けるか

汗ばんだ 肌を這うのは 風の指 紅を拭うは 雨のくちびる

黙ってると 発狂しそうで 怖いから 歌にもならない 言葉とあそぶ

白き腹 我に見せつけ 泣く蝉の その断末魔を しばし羨む

青空の 青の薄さに 耐えかねて 染め直したきと 思う恋空

改札で ふいに触れたる 唇に 嗅いだ香りは またマンデリン