伝えたい言葉なんてない

昔詠んだ歌、今詠む歌

半分は嘘

大丈夫と 言いし君の 半分は嘘 大丈夫と 答えし我の 半分も嘘

珈琲の 余韻残れる 唇に 触れた小指の 冷たさは秋

あてのない 舟旅ならば 月の夜 櫂を流して ほどく黒髪

履き慣れぬ ガラスの靴を 脱ぎ捨てて 発車間際の 終電に乗る

欲しいのは 龍宮城の玉手箱 今まではみな 夢だったのねと 白髪婆が言う

馬鹿の皮(五行歌)

 

次を剥いたら
リコウが出てくるかと
玉ねぎのように
バカの皮を
剥く

  

鬼になったあと
ひとつ息を吐いて
鏡に向かう
紅筆の先から
女が入ってくる

  

めちゃくちゃに
壊れてしまいたい
と思う一方で
堅固な
鎧を着る

気持ち的に返歌

id:saara85 さんの「どす黒い想い。 」に掲載された歌に、気持ち的に(技術的にということではなく)返歌。

 

切り裂いた 腹から吾子を取り出して 救われし我 暗黒の血

 

迷うという自由はなかったのだ。

医師はそれが当然のように、腹の子を殺し、私を救った。

そのとき、私の血の半分は、暗黒色になり、その選択を責められたとき、残りの半分もどす黒く染まった。

いつか一緒に

空駆ける 翼ないこと 悔しくて 肩甲骨に爪を立ててる

遠き街 君の泣き声 風の音 鼓膜の奥で絶え間なく鳴る

看取られて 逝く日のなき身の 淋しさと 心軽さを 風よ さらえよ

西行と 並ぶ 我が身のおこがまし 花の下にて 眠りたきとは

吾(わ)も友も 修羅の道にてうずくまる いつか一緒に 酒でも飲もうや

騒ぐ胸

来る人が みんなあなたに見えるのは 私の視力が落ちたせいなの?

わからない 明日ならいっそ そのままで 緑の帽子で スナフキンになる

覗き込む カップに揺れる 深緑に 見え隠れする 夜叉のくちびる

あなたから  逢いたいの言葉  聞きたくて  左の耳を空けてあります

髪を切る 理由は別にないけれど あったみたいに 君に言いたい

君が住む その街の名に 振り向いた 画面の時刻を 何故か憶える

夕暮れの 月の紅さに 騒ぐ胸 なだめ響くは 冷蔵庫の音

測る秤の

【春に詠んだうた】

どうしてと あなたは尋ねる どうしてと 私は応える 春雷が鳴る

さよならを 告げようとした くちびるを 不意にふさいだ 花のひとひら

朽ちるなら 風のない夜に 君の身を 散り染めたしと 思う春宵

 

【ほか】

心には たったひとつの 弾ありて 誰に向かって 引き金を引く

シャンパンの 儚き泡が消えぬまに 酔ってしまえよ 心と子宮

本日は 定休日です の札をかけ エロくアブないオンナになるわ

幸せを 測る秤の なきことを 幸せと思い 今日を生き抜く