伝えたい言葉なんてない

昔詠んだ歌、今詠む歌

数珠を持つ

【今年の正月開けに詠んだうた】 正月の めでたさもなく 朝は来て 晴れたる空に 真白き富士見る かしわ手も 垂れるコウベも 持たずして 不死の高嶺に 撃つ指鉄砲 数珠を持つ 指も冷たい 法要に 遺影の父は 夏姿で笑む 【アルジェリア人質事件の際に】 この世…

修羅の血は

何もかも とりあえずという 棚に上げ とりあえず生き とりあえず食う 空を見る 足元を見る 前を見る こぶしを握る 夏雲が湧く むせかえる 金木犀の花の香に 肩甲骨のあたりで嫉妬 次の春 その次の春は 誰がいて 誰がいないか おそろしきこと 目覚めたら 夢で…

藍より出でて

飛び上がるほどの大声 母を恥じ 恥じる私を さらに恥じ入る 君と飲む 300円の珈琲を 極上と思う 今日はいい日だ 我が胸に 巣食う魔物に杯を挙げ 今後もよろしく お手やわらかに 君の言う 大丈夫だよの その中に 滲む真実 潜んでいる嘘 握り締め 我が手に残っ…

君の香を

君の香を 降り込めたのか 今朝の雨 指先の露 いとおしく見ゆ いくたびか 破れ落ちたる 堪忍袋 言葉紡いで 縫い直す今 流れゆく 命の河の うたかたに 我の名を呼ぶ 我も名を呼ぶ 軒叩く 遣らずの雨に まぎれては 名残りの蝉の 恋果つる夏 想い出の カケラ集め…

蝉時雨

もう誰も 知る顔のない 町はずれ かしげた日傘に 降る蝉時雨 懐かしい 恋の名残は 歌の中 ドーナツ盤の回転の中 静脈に 映す炎の 緋の色で 君を溶かすか 我が融けるか 汗ばんだ 肌を這うのは 風の指 紅を拭うは 雨のくちびる 黙ってると 発狂しそうで 怖いか…

未満月

水かきの あったあたりが 触れ合って 魚になろうと 君とうなづく バレッタを 外す手首を握り締め 何を急くのか 夏の海風 足りないと もういらないを繰り返し 午後の日射しは 緩く翳りぬ 真っ直ぐに 生きられないのは 背に残る 翼の痕が 不揃いなのね 真夜中…

サラダ記念日も知らなかった

心が凍っていた10数年があった。 きっとこのまま死ぬのだ、と思った。 でも。 ある日、見知らぬ人の歌が、私の胸の扉を叩いた。 三十一の文字。 夢のかかと ~私がヘタな歌を詠む理由~ 「ななしのかかし」より サラダ記念日も、読んだことのなかった私。 真…