伝えたい言葉なんてない

昔詠んだ歌、今詠む歌

数珠を持つ

【今年の正月開けに詠んだうた】

正月の  めでたさもなく  朝は来て  晴れたる空に  真白き富士見る

かしわ手も  垂れるコウベも   持たずして  不死の高嶺に  撃つ指鉄砲

数珠を持つ 指も冷たい 法要に 遺影の父は 夏姿で笑む

 

【アルジェリア人質事件の際に】

この世には 神も仏も ありませぬ あるのは人と ひとでなしのみ

誰(た)も彼も 母と我が身に重なれり その白髪の 揺れと震えに

何の非も 思い当らぬ 凶みくじ 引かせる神は 鬼か悪魔か

ぶん ぶん と 子を呼ぶ母の 哀しみを テレビで見ていて ごめんなさいね

 

修羅の血は

何もかも とりあえずという 棚に上げ とりあえず生き とりあえず食う

空を見る 足元を見る 前を見る こぶしを握る 夏雲が湧く

むせかえる 金木犀の花の香に 肩甲骨のあたりで嫉妬

次の春 その次の春は 誰がいて 誰がいないか おそろしきこと

目覚めたら 夢であったとわかるから 手を触れないで あなたを見てる

ときどきは 前向きな君が 辛くなる 振り向くばかりの私を見ないで

強がりは 小さな呪文のかけ始め 私は強いと 繰り返す夜

修羅の血は 藍か緋色か漆黒か 舐めてみせよか 濡らしてやろか

藍より出でて

飛び上がるほどの大声 母を恥じ 恥じる私を さらに恥じ入る

君と飲む 300円の珈琲を 極上と思う 今日はいい日だ

我が胸に 巣食う魔物に杯を挙げ 今後もよろしく お手やわらかに

君の言う 大丈夫だよの その中に 滲む真実 潜んでいる嘘

握り締め 我が手に残ったものよりも こぼれ落ちたる砂を愛しむ

それぞれに それぞれの雨降る 神無月 雨の数だけ 傘もないのに

青はそも 藍より出でて 愛になり 哀にいたりて その胸に染む

君の香を

君の香を 降り込めたのか 今朝の雨 指先の露 いとおしく見ゆ

いくたびか 破れ落ちたる 堪忍袋 言葉紡いで 縫い直す今

流れゆく 命の河の うたかたに 我の名を呼ぶ 我も名を呼ぶ

軒叩く 遣らずの雨に まぎれては 名残りの蝉の 恋果つる夏

想い出の カケラ集めて はめてゆく 指に刺さりし 棘も抜かずに

月の夜は 疲れ 憑かれて 突かれて踊る はらりと落ちた後れ毛に 汗

婆ちゃんと  呼んでくれるな  我が母を  孫の重さも  知らずに逝くのに

辛いという字 何かを足したら 幸せに なれそうな気がする そんな朝

蝉時雨

もう誰も 知る顔のない 町はずれ かしげた日傘に 降る蝉時雨

懐かしい 恋の名残は 歌の中 ドーナツ盤の回転の中

静脈に 映す炎の 緋の色で 君を溶かすか 我が融けるか

汗ばんだ 肌を這うのは 風の指 紅を拭うは 雨のくちびる

黙ってると 発狂しそうで 怖いから 歌にもならない 言葉とあそぶ

白き腹 我に見せつけ 泣く蝉の その断末魔を しばし羨む

青空の 青の薄さに 耐えかねて 染め直したきと 思う恋空

改札で ふいに触れたる 唇に 嗅いだ香りは またマンデリン

未満月

水かきの あったあたりが 触れ合って 魚になろうと 君とうなづく

バレッタを 外す手首を握り締め 何を急くのか 夏の海風

足りないと もういらないを繰り返し 午後の日射しは 緩く翳りぬ

真っ直ぐに 生きられないのは 背に残る 翼の痕が 不揃いなのね

真夜中の 空を斬り裂く稲妻に 焦がれる如く 我が腕を抱く

つり革の 見知らぬ男の 指を見る 日焼け残りの 白い輪の跡

仰ぎ見る 夜空に冴える 未満月 ゆがんだカタチを いとしいと思う

サラダ記念日も知らなかった

心が凍っていた10数年があった。

きっとこのまま死ぬのだ、と思った。

でも。

ある日、見知らぬ人の歌が、私の胸の扉を叩いた。

三十一の文字。

 夢のかかと ~私がヘタな歌を詠む理由~ 「ななしのかかし」より

 

サラダ記念日も、読んだことのなかった私。

真似をして、数を合わせて言葉を並べた。

上手に詠めない。

何が上手で、何が下手で、どこをどうしたらいいかもわからない。

だけど。

 

心が凪いでいった。

 

伝えたい言葉なんてない。

歌は、私が私として生きていくために吐く反吐のようなもの。

あるいは、自分にかける魔法の呪文。

だから、組織とかには入りたくない。

誰かに評されたり、比べたりされたくないし、したくない。

 

いろんなところでちょっとずつ詠んできた歌がある。

ばらばらの歌たち。

不意に居場所を作ってみたくなった。

誰の役にも立たない三十一の文字たち。

でも、私を助けてくれたね。

 

いくつかの歌のブログを見つけられたのは、大きな幸運だったと思う。

触発されるように、このブログを作った。

文章を書くのが、ちょっとしんどくなることがある。

そんなときのための、ここは保管庫。

 

今回、扉をノックしてくださった以下のブログに、心から感謝します。

ありがとう<(_ _)>

 

(id:nov4r)さんの 真昼の月からの手紙

id:luvlife さんの ひきこもり女子いろいろえっち

id:saara85 さんの クルったウタ日記