伝えたい言葉なんてない

昔詠んだ歌、今詠む歌

3月11日

故郷の 海に向かいて合掌す 痩せた背骨を 雨よ叩くな

初七日

手洗いの 喪服が揺れる 夏の軒 初七日の 経をよんだか 蝉の聲

驟雨

朝練の 驟雨の如き 竹刀(たけ)の音※出勤途上の体育館から聞こえてくる高校生たちの朝稽古の竹刀の音に、洗われる想いがした。 甘えたい心を打ち据えられたいものか。 ゲリラ雷雨などという表現は身も蓋もないが、突然の激しい雨に気が済むまで濡れていたいと…

一過

颱風の 洗い流しての 盆送り

歳暮るる

留守番の猫の欠伸に歳暮るる

きっといる神さま

ふるさとの 訛りかと思い 振り向いた 画面の中に フランス語聴く 一体の 亡骸の上に 降り積もる 報じきれない かなしみの数 新米を 美味いと思う その朝に 閉ざす命を知らぬ無惨さ 通り過ぐ 社(やしろ)の前で手を合わせ つい口に出た 南無阿弥陀仏 友から…

70年

ケロイドごと老いる被爆者たちの背の皮膚

カサブタ

もう大出血はしないとわかっていて剥くカサブタの快楽

虫の死骸

挟まれし虫の死骸があるあたり 「死」の字に怯える推理小説 特別とそうじゃない人 均等に ただのメリクリ 伝える特別

月と線香花火

わたくしが 帰れる月は 満ちもせず 欠けるばかりの 三日月の端 三日月の 端っこに座り ぶらぶらし 脱げたサンダル あなたに当たれ 線香の 火花の球が落ちるのに 気づかないほど あなたを見てる ジュッという 音と一緒に 我が恋も 消してしまえよ バケツの中で…

笑わば笑え

憎しみを こねて丸めた 泥団子 呑み込み過ぎて お腹いっぱい それだけで 剣にもなれば 罪も産む 脳天気という おそろしきもの 目を瞑り 耳を塞ぎて生きてゆく 視野の狭さを 笑わば笑え 折々の 花の清しは誰も詠む 吾は胸張り 吾の毒詠む 三十一(みそひと)…

颱風

笠遣ろか 問ふ地蔵にも 足はなし それより吾子をと 親燕は云ひ 颱風が来るから傘をと 呼びかける 夫(つま)無き軽さで 出勤の朝 ここいらじゃ「蛇抜け(じゃぬけ)」と呼ぶと その人は 土石流の村 振り返り居り ※例によって返歌・追詠

伯剌西爾

伯剌西爾 和蘭陀という文字を 切り貼りし 私ひとりの 地球儀回す 胸の中 小人くらいの英雄を 宿して 敗者 ピッチを去りぬ むさくるし 大の男が ムキになり 球追う姿に わたし何故泣く ※ドロさんとこへの返歌と追詠み

人生の95%は負け

勝ってから 言ってみたいのは 「人生の95%は負け」 片方は 「毒だみ」と呼ばれ 一方は「半夏生」と呼ぶ 人の残酷 髪を切ろうと 思ったときから すこしずつ 私の中の あなたを斬ってる

よそんちの

よそんちの 猫の訃報に 息を呑む よそでこれなら 猫でこれなら

歌が繋ぐもの ~返歌について~

6月25日「今朝」と6月28日「葬送」の歌は、ドロさんの歌に対する返歌。 コメントに書かせてもらったのを移稿した。 そもそも、私が短歌を始めたきっかけは、ここに書いたとおり。 「夢のかかと」 http://doconoko.hateblo.jp/entry/2012/10/01/085157 始まり…

葬送

蛞蝓の 亡骸運ぶ 雨上がり 黒衣の蟻の 葬送の列

今朝

暮れゆきぬ 異国の芝に 膝をつく 若者たちに 汁杯を挙ぐ

それなのに

それなのに 僕が忘れてしまうのは キミの名でなく 背中にある痣 最近は 恋歌詠まないんだねって キミにフラれたからなのに 捕獲した あなたの言葉がエサになる もすこし 甘さを足しておいてよ 恋よりも 大事なことがあるんだよ 強がりじゃないよ と強がって…

今日は泣いてもいい日

「閖上」を「ゆりあげ」と読むと知ったあの日の哀しみ 「もう」とも言えず「まだ」とも言えぬ3年という時の重石 住所録に残る釜石のあなたの名をわたしはまだ削除できないんだよ

荷をひとつ 降ろそうと決め いつもより すこし 長めの湯に居る

続・武器

「こうすべき」という縄に縛られ 矢に射抜かれ息が止まるからその言葉を使う人に怯える ハウツーもののブログタイトルに「●●のためにあなたがすべき5つのこと」「読んでおくべき本ベスト5」とかあるだけで、うへっと思う(^_^;)

武器(五行歌)

会ったこともない他人の日常が武器となるネットという妖かし

神無月逝く

可も不可も 幸も不幸も ありませぬ 笛吹きながら 神無月逝く

半分は嘘

大丈夫と 言いし君の 半分は嘘 大丈夫と 答えし我の 半分も嘘 珈琲の 余韻残れる 唇に 触れた小指の 冷たさは秋 あてのない 舟旅ならば 月の夜 櫂を流して ほどく黒髪 履き慣れぬ ガラスの靴を 脱ぎ捨てて 発車間際の 終電に乗る 欲しいのは 龍宮城の玉手箱 …

馬鹿の皮(五行歌)

次を剥いたらリコウが出てくるかと玉ねぎのようにバカの皮を剥く 鬼になったあとひとつ息を吐いて鏡に向かう紅筆の先から女が入ってくる めちゃくちゃに壊れてしまいたいと思う一方で堅固な鎧を着る

気持ち的に返歌

id:saara85 さんの「どす黒い想い。 」に掲載された歌に、気持ち的に(技術的にということではなく)返歌。 切り裂いた 腹から吾子を取り出して 救われし我 暗黒の血 迷うという自由はなかったのだ。 医師はそれが当然のように、腹の子を殺し、私を救った。 …

いつか一緒に

空駆ける 翼ないこと 悔しくて 肩甲骨に爪を立ててる 遠き街 君の泣き声 風の音 鼓膜の奥で絶え間なく鳴る 看取られて 逝く日のなき身の 淋しさと 心軽さを 風よ さらえよ 西行と 並ぶ 我が身のおこがまし 花の下にて 眠りたきとは 吾(わ)も友も 修羅の道…

騒ぐ胸

来る人が みんなあなたに見えるのは 私の視力が落ちたせいなの? わからない 明日ならいっそ そのままで 緑の帽子で スナフキンになる 覗き込む カップに揺れる 深緑に 見え隠れする 夜叉のくちびる あなたから 逢いたいの言葉 聞きたくて 左の耳を空けてあ…

測る秤の

【春に詠んだうた】 どうしてと あなたは尋ねる どうしてと 私は応える 春雷が鳴る さよならを 告げようとした くちびるを 不意にふさいだ 花のひとひら 朽ちるなら 風のない夜に 君の身を 散り染めたしと 思う春宵 【ほか】 心には たったひとつの 弾ありて…